植物は外見は似通っていても、糸芭蕉の幹にある繊維は、実芭蕉(バナナ)より多く、強く、芭蕉布の素材として上質です。一般的に糸芭蕉は株分けによって栽培していきますが、それを続けると繊維が劣化していくということを知り、種からの栽培を試みています。細やかに手入れをしながら3年以上かけ育てる糸芭蕉。芭蕉布づくりは織るよりもまず、畑仕事です。
糸芭蕉の繊維は苧(うー)と呼ばれます。それを一枚ずつ剥いでいく「苧剥ぎ」のとき、繊維の中心部分にある細くやわらかい部分を着尺用に、一番外側の部分を座布団に分けるのが一般的です。ですが畑に立って感じるのは、糸芭蕉の表情はもっと多様だということ。さらに細やかに13種類に分類することで、糸芭蕉がもつ最上の美質をとりだしたいと思っています。
一反の布を(40?×12.5m)を織るには約23kmの糸が必要です。糸芭蕉栽培や繊維の採取、糸紡ぎなど、根気のいる手仕事すべてを自ら手がけるにはわけがあります。分業ですれば糸の選び分けひとつとっても、人によって判断基準が微妙に違ってくるのは免れませんが、すべて引き受ければ、納得のいく仕事ができます。丹念に紡いだ糸は、琉球藍や車輪梅(しゃりんばい)、紅露(くーる)など沖縄の植物染料をつかい、数十回作業を重ねて染めていきます。